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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)11728号 判決 1998年9月29日

大阪市北区大淀中二丁目八番二号

原告

三田理化工業株式会社

右代表者代表取締役

千種喜作

右訴訟代理人弁護士

酒井信雄

酒井広志

大阪府東大阪市長田西六丁目一二番地

(商業登記簿上の本店所在地・大阪市東成区深江北二丁目二番四号)

被告

株式会社ヒラタニ

右代表者代表取締役

平谷康治

大阪市北区堂島二丁目一番一六号

被告

東洋紡エンジニアリング株式会社

右代表者代表取締役

有田生雄

右両名訴訟代理人弁護士

高木茂太市

田中弘史

里井義昇

主文

一  原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告らは、その商品表示として「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」という標章を使用してはならない。

二  被告らは、別紙目録(一)記載の広告を、被告株式会社ヒラタニは、別紙目録(二)記載の広告を、それぞれ使用してはならない。

第二  事案の概要

本件は、理化学用及び医療用機械器具の製造販売を業とする株式会社(弁論の全趣旨)で、昭和四六年五月から病院納入用乳児用ミルクの調製機器(以下「病院用ミルク調製機器」という)を製造、販売している(甲一、原告代表者)原告が、粉乳及び浄水を溶解・攪拌・冷却分注するミルクの混合調製工程の一連の装置(浄水器、計量器、混合・攪拌機、スチーマー、冷蔵庫等)に昭和五六年頃から使用している「調乳ユニット」との表示及び哺乳瓶の洗浄設備工程に用いられる一連の装置(流し台、洗浄機、滅菌・乾燥・自動冷却機等)と右ミルクの混合調製工程の一連の装置とを合わせた全体のシステムに昭和四八年から使用している「調乳トータルシステム」との表示は原告の商品表示として周知性を取得しているから、被告株式会社ヒラタニが発売元、被告東洋紡エンジニアリング株式会社が事業主となって病院用ミルク調製機器を製造、販売するに当たり「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示を使用している(争いがない)のは、原告の製造、販売する商品であるとの誤認混同を生じさせるので不正競争防止法二条一項一号及び一〇号の不正競争に当たり、原告が多年にわたって築いてきた実績と信用を失墜させるものであると主張して、同法三条一項に基づき「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示の使用及びこれらの表示を用いた被告らの別紙目録(一)及び(二)記載の広告(カタログ)の使用の差止めを求めるものである。

これに対して、被告らは、そもそも原告は「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示を原告の商品表示として使用していないし、「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」という語は、普通名称であり、特別顕著性がないから、周知性を取得することはなく、また、不正競争防止法二条一項一号及び一〇号の適用除外事由である一一条一項一号に該当する旨主張するので、これらの点が争点である。

第三  争点に関する当事者の主張

【原告の主張】

一  原告は、「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示を原告の商品表示として使用している。

1 原告が製造、販売している病院用ミルク調製機器は、哺乳瓶の洗浄工程とミルクの混合調製工程からなり、哺乳瓶の洗浄工程に用いられる一連の装置(流し台、洗浄機、滅菌機、乾燥機、自動冷却機等)とミルクの混合調製工程に用いられる一連の装置(浄水器、計量器、混合・攪拌機、スチーマー、冷蔵庫等)とを合わせた全体のシステムを「調乳トータルシステム」と称し、そのうちのミルクの混合調製工程の一連の装置を「調乳ユニット」と称している。

そして、原告は、昭和四六年五月、ミルクの混合調製工程の一連の装置に「調乳台」との表示を使用して藤沢市民病院に販売、納入した。それ以降、原告は、「調乳水製造装置」などのように常に「調乳」の文字を使用し続け、昭和四八年には前記全体のシステムに「調乳トータルシステム」との表示を使用しはじめ、昭和五七年一二月には右「調乳台」との表示を「調乳ユニット」との表示に変更して市立伊丹病院に販売、納入し、昭和五八年四月福井医科大学附属病院、昭和六〇年三月岡山赤十字病院というように、以後も、同表示を使用して多くの病院に販売、納入し続けている。

2 被告ら指摘の「RACOON」「ラックーン」との表示は、原告の商標(商標法二条一項一号)であって、原告の取り扱う商品全部に使用しているものである。これに対し、「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示は、原告が取り扱う病院用ミルク調製機器についてのみ使用する商品表示(不正競争防止法二条一項一号)であり、原告が取り扱う商品であっても他の商品には使用していない。

原告のカタログ(検甲二、乙一一)は、トータルシステムにおいては粉乳から乳汁に至るまでの哺乳瓶の洗浄設備工程とミルクの混合調製工程を組み合わせた全過程が自動的に作動されなければならず、そのために各種システムが取り揃えられているのであるから、ユニットを構成する個々の機器についても説明することになるのである。

二  「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示は、普通名称ではなく、原告の商品表示として全国の大病院において広く認識されるに至っている。

1 原告の病院用ミルク調製機器は、大勢の人手が省け、消毒も完備し、常に一定の温度と濃度を保った大量の授乳が一挙にできるため、納入した病院において極めて好評であり、原告は、これを全国各地の病院に独占的に販売、納入し続け、販売先に当たる小児学会等の学会と併設した展示会にも出品して知名度を高めた結果、病院用ミルク調製機器を必要とする大病院においては、「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」といえば原告の製造、販売する機器を指すものと広く認識されるに至った。病院用ミルク調製機器は、「調乳トータルシステム」のように大病院の産科、小児科に設置されるもので、大きさも一室内に納める程度に大きく、価格も相当高いものであり、需要者は大病院(全国で二〇〇〇程度)に限られているから、その大病院の中で広く認識されていることが必要であり、かつそれで十分なのである。

2 「調乳」という語は、一部医学者の間で学術研究の用語として使用されているようであるが(乙一ないし七)、不正競争防止法一一条一項一号にいう商品の「普通名称」とは、取引市場において一般に使用されている名称をいうものであるから、普通名称ではない。辞典にしても、「調乳」という語が掲載されていないものもあり(甲六ないし八)、一部の辞典に掲載されているからといって、未だ普通名称といえるほど熟しているとはいえない。被告ら援用の他社のカタログ(乙一三ないし一八)には「調乳」の語が使用されているが、中村医科工業株式会社のカタログ(乙一三)を除いてはすべて、メーカー又はディーラーから直接エンドユーザーである個人消費者へ流通する小売用の商品に関するものであって、原告の商品とは販路が異なるだけでなく、どちらかといえば最近のカタログである。中村医科工業株式会社は、約二〇年前に原告の商品である調乳用殺菌装置や哺乳瓶洗浄器を販売していたことがあり、その際に「調乳」の語を使用していたためその後も引き続いて使用しているものと思われるが、ユニットやトータルシステムは製造、販売していない。

また、「ユニット」「トータル」「システム」という語は、各別にはそれぞれ普通名称であるが、「トータルシステム」という語は、造語であって正統な英語ではなく、普通名称を普通に用いられる方法で使用したものではない。最近よく見かける「トータルファッション」、「トータル・インテリア」という語も、和製英語であって、わが国で一般化して普通名称になりつつあるにすぎない。被告ら援用のカタログ等(乙二三の1~7、二四、二五、二六の1~5、二七の1~3、二八ないし三一)に使用されている「トータルシステム」という語も、部品を組み合わせた一個の装置(プラント)を指すもの(乙二四、二五、二七の1ないし3)と、用途に応じて利用できるように各種の独立した商品が数多く作られてどのような場合にも応じられるという形式の商品を総合して指すもの(乙二八、二九)と、どちらとも分からないものとがあって、その意味が定まっていないし、普通名称であれば、「トータル移送システム」(乙二六の5)、「トータルエアシステム」(乙二七の2)のように「トータル」と「システム」の間に文字を割り込ませるようなことはできないはずであるから、「トータルシステム」という語が普通名称でないことを示すものである。

仮に「ユニット」だけでなく、「トータルシステム」という語もまた普通名称に転化したものであるとしても、「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」というように用途の特定を表す「調乳」の語を冠することにより、新たに独自の商品表示を形成し、原告の商品との結びつきが堅く、これを原告が古くから独占して使用しているのであるから、「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示は、普通名称を普通に用いたものでも、慣用されている商品表示でもない。原告の商品を単に普通名称で呼称するならば、粉乳調製装置とでも称するものである。

3 仮に「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」という語が普通名称として取り扱われるとしても、前記のとおり、原告は、古く昭和四六年から「調乳」に関し独占的に「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示を使用して同じ商品を独占的に販売し続けて信用を得てきたのであり、かかる表示は、少なくとも大病院において原告の商品表示として著名性を取得しており、原告の商品に密着した商品表示になりきっているから、それだけで保護されるべきである。

【被告らの主張】

一  原告は、「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示を原告の商品表示として使用していない。

1 原告は、「RACOON」「ラックーン」との表示を商標として使用し、その商標のもとに、「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示を、全工程あるいは調乳設備工程における各機器の組合せパターンを紹介、説明する呼称として使用しているにすぎず、それ以上に、原告の商品を表示する特定の名称として使用しているものではない。

2 すなわち、原告のカタログ(検甲二)において、「RACOON」との商標のもとに、商品の説明ないし種類として「調乳トータルシステム」と記載し、「調乳ユニット」、「RO調乳水製造装置」等、「調乳」のための各種機器のシステムを説明しているにすぎない。そこに「調乳ユニット」なる商品が五段にわたって掲載されているが、全部異なる商品であって、特定の商品を個別化するために「調乳ユニット」との表示が使用されているものではない。

カタログ(乙一一)においても、原告の商品を表示する商標は「RACOON」であり、その中で、「洗浄設備工程」と並んで「調乳設備工程」が記載され、その説明中の一つのユニットとして「調乳水製造装置」「調乳ユニット(CMD型)」が記載され、以下各頁に「RACOON」との商標のもとに、「調乳室」「調乳ユニット」「調乳工程」が説明され、「調乳トータルシステムのレイアウト例」が示されている。

二  「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」は、普通名称、形状表示あるいはその組合せであり、特別顕著性がないから、周知性を取得することはなく、また、不正競争防止法二条一項一号及び一〇号の適用除外事由である一一条一項一号に該当する。

1 まず、「調乳」という語は、原告が考案したものではなく、遅くとも昭和三六年以降、「小児保健研究」(乙一ないし三)、「臨床栄養」(乙四)、「畜産の研究」(乙五)、「家政学雑誌」(乙六)、「医学大辞典」(乙七)等の書物において用いられており、他社も、ミルク調製機器の商品説明において、「調乳用殺菌水装置」「調乳用器具」(乙一三)、「調乳用品」(乙一四)、「調乳関連用品」(乙一六)、「哺乳・調乳用機器」(乙一七)、調乳ポット」(乙一五)、「調乳適温」(乙一八)として使用している。

「ユニット」という語も「トータルシステム」という語も、キッチンユニット、キッチンシステム等と同様に普通名称である。すなわち、「トータルシステム」という語は、総合カタログ「HOSPEX japan96-医療・福祉施設のための設備・機器総合展-」(乙二三の1~7)において「メディカル・トータルシステム」等として記載され、医療機器関係会社のカタログである「ディプラント脱臭トータルシステム」(乙二四)、「全自動アンプル払出システム」(乙二五)、「yamato試験研究設備」(乙二六の1~5)、家電メーカーその他のカタログ(乙二七の1~3、二八、二九)、一般の文献である「セキュリティ・マネジメントハンドブック」(乙三〇)、「システム・インテグレータ」(乙三一)にも記載されているように、医療分野を含めた各種分野において広く使用されている。

2 したがって、「調乳」と「ユニット」又は「トータルシステム」を組み合わせても、単なる普通名称、形状表示あるいはその組合せであり、特別顕著性も識別力も有しないのである。

第四  争点に対する当裁判所の判断

一  証拠(甲一、証人酒井欣吾、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の1ないし3の事実が認められる。

1  原告は、理化学用及び医療用機械器具の製造販売を業とする株式会社であり、病院用ミルク調製機器を含む原告のすべての商品に「RACOON」「ラックーン」との表示を使用している。

2  従来、病院の産婦人科、小児科等においては、入院中の乳児のためのミルクの調製や使用済み哺乳瓶の洗浄・滅菌等を、産婦人科、小児科等それぞれの病棟のナースステーションで個別に看護婦が行っていた。昭和四三年、大阪市立大学医学部附属病院では、建替えを機に、看護婦不足を補うために、「調乳の中央化」を標榜して右のミルクの調製等につき病院全体分を一か所(中央)で集中して行って各病棟に配送する方式を導入することになり、原告に対し哺乳瓶の洗浄からミルクの調製に至るシステム化の検討を依頼した。同年、原告は、まず、使用済み哺乳瓶を洗浄する装置を開発し、これを同附属病院に納入し、昭和四六年一月にはこれを「ラックーン三田万能洗浄機」との名称で兵庫県立こども病院及び大阪大学医学部附属病院にも納入した。

昭和四六年五月、原告は、浄水と粉ミルクの計量・混合・攪拌・融合・自動冷却の一連の作業を行う装置を開発し、「ラックーン調乳台」との名称で藤沢市民病院に納入した。その後、原告は、昭和五七年一二月、右「ラックーン調乳台」との名称を「ラックーン調乳ユニット」との名称に変更して、市立伊丹病院に納入した。

また、昭和四八年頃には、原告は、哺乳瓶の洗浄からミルクの調製・保管に至る一連の工程をシステム化して、哺乳瓶をまとめて洗浄する洗浄設備工程(流し台・予浸槽・洗浄機)、滅菌する工程(滅菌機)、ミルクを調製する調乳設備工程(調乳水製造装置・調乳ユニット・自動分注装置・冷蔵庫)からなる一連の病院用ミルク調製機器を開発し、これを「ラックーン調乳トータルシステム」との名称で販売するようになった。

3  こうして、原告は、昭和四六年五月以降、「ラックーン調乳台」ないし「ラックーン調乳ユニット」(昭和五七年一二月以降)を右「ラックーン調乳トータルシステム」のうちの一ユニットとして(稀に単独で)、全国各地の大学附属病院、国公立病院等の大病院に販売してきており、原告がこれを納入した国内の病院の数は、昭和四六年3、同四七年2、同四八年8、同四九年8、同五〇年6、同五一年7、同五二年11、同五三年6、同五四年12、同五五年11、同五六年6、同五七年11、同五八年13、同五九年7、同六〇年10、同六一年10、同六二年5、同六三年6、平成元年3、同二年5、同三年4、同四年5、同五年5、同六年3、同七年3の合計一七〇に達している。そのほか、原告は、同様の病院に対し、「ラックーン三田洗浄機」「ラックーン流し台」「ラックーン水切り台」「ラックーン冷却槽」「ラックーン作業台」「ラックーン分注器」などを右「ラックーン調乳トータルシステム」のうちの一装置として(稀に単独で)納入した。

また、原告は、小児学会や栄養士学会等の学会の際の併設展示として、原告の右「ラックーン調乳ユニット」ないし「ラックーン調乳トータルシステム」をしばしば展示している。

二  しかして、原告は、原告は「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示を原告の商品表示として使用しており、これらの表示は、普通名称ではなく、原告の商品表示として全国の大病院において広く認識されるに至っていると主張する。

右一認定の事実によれば、原告は、原告の製造、販売する病院用ミルク調製機器について、昭和四六年五月から「ラックーン調乳台」、昭和五七年一二月から「ラックーン調乳ユニット」、昭和四八年頃から「ラックーン調乳トータルシステム」という名称で、「調乳」及び「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示を使用してきており、全国各地の相当数の大病院にこれらの病院用ミルク調製機器を納入してきた実績があるということができる。

しかしながら、以下の理由により、原告主張の「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示は、原告の商品表示として使用されているとも、原告の商品表示として広く認識されているとも認められない。

1  まず、「調乳」という語は、昭和三六年一二月日本小児保健研究会発行の「小児保健研究」二〇巻三号掲載の論文「乳児の人工栄養基本形式について(小児栄養懇話会案・1961)」において「調乳形式」「調乳材料の成分」「調乳した乳汁」「調乳の濃さ」「牛乳を用い調乳する時」「人工栄養の調乳処方」「調乳表」、昭和三七年五月発行の同誌二〇巻四号掲載の自衛隊中央病院小児科・日本乳業技術協会担当者の論文「調製粉乳を用いる調乳の加熱消毒によるビタミンA、B1、Cの損失と性状の変化について」において「調乳を行なう」「調乳の一滴」「各種調乳のビタミンA含量」(乙一)、昭和三八年七月発行の同誌二一巻四号掲載の札幌医大・北大・市立札幌病院・札幌斗南病院・国立札幌病院各小児科担当者の論文「新生児栄養法の検討」において「新しい調乳法」、昭和三九年五月発行の同誌二二巻三号掲載の自衛隊中央病院小児科担当者の論文「哺乳びんに用いる乳首の臨床的評価」において「乳児人工栄養の調乳処方や調乳法」、「調乳流出量」(乙二)、昭和四〇年五月発行の同誌二三巻二号掲載の愛育研究所担当者の論文「保健所における乳児栄養指導法について」において「人工栄養の調乳法」「調乳、離乳」、昭和四一年二月発行の同誌二三巻五号掲載の市立札幌病院小児科担当者の論文「家庭保育における調乳法の観察」において「母親が調乳するとき」「母親が家庭で実際に行っている調乳法」「調乳濃度」「一回の調乳量」(乙三)、昭和四一年八月発行の「臨床栄養」二九巻二号掲載の岡山大学医学部小児科学講師の随筆「育児用調製粉乳」において「調乳された」「昔からの調乳方法」、昭和四一年一一月発行の同誌二九巻六号掲載の女子栄養大学講師の論文「乳幼児期栄養指導の方法と技術」において「調乳法」、同じく愛育病院栄養部担当者の論文「乳幼児栄養指導上の諸問題と対策」において「調乳の処方基準」「母乳に近づけた調乳の調製」(乙四)、昭和五一年八月発行の「畜産の研究」掲載の熊本県畜産試験場担当者の論文「哺乳装置を用いた代用乳給与における子牛の吸乳行動(第2報)」において「自然哺乳に近似した不連続調乳」(乙五)、昭和五二年七月日本家政学会発行の「家政学雑誌」二八巻四号掲載の日本女子大学・国立相模原病院各担当者の論文「マイクロ波加熱による調乳の殺菌(第1報) マイクロ波加熱と蒸気加熱の比較」において「育児用の調乳」「調乳する量」「調乳量」「調乳室内部」(乙六)としてそれぞれ使用されているように、病院や大学医学部関係者の論文等において、特に説明を加えることなく、牛乳又は調製粉乳を水(湯)に溶解して乳汁を調製すること又はその調製した乳汁の意味で使用されていること、右昭和四一年一一月発行の「臨床栄養」二九巻六号(乙四)に掲載された明治乳業の「明治コナミルク」の広告には、「単一調乳ミルク」と題して「調乳の母乳化に成功した画期的な新製品 添加物のいらない待望の『単一調乳』ミルクの誕生です」「濃度も三期にわけて一定化し調乳を簡素化しました」と記載されていること、昭和四一年九月株式会社小学館発行の「世界原色百科事典6」には、「調乳」の項に「人工栄養の乳児のための乳汁をつくること……」(乙二〇)、昭和四九年一月一日第二版発行(昭和三五年一二月一〇日初版発行)の三省堂国語辞典には、「調乳」の項に、名詞及びサ行変格活用の自動詞として「粉ミルクをとかして、乳(チチ)を作ること」(乙一九)、昭和六二年六月一五日医歯薬出版株式会社発行の「最新医学大辞典」には、「調乳 formula」の項に「人工栄養を行うときに、牛乳または乳製品を各々の乳児に合わせて調合すること。……」(乙七)と掲載されていること、昭和六〇年八月作成の中村医科工業株式会社の小児科・産婦人科医用機器総合カタログNo.11」には「哺乳・調乳用機器」として「調乳用殺菌水装置」、「哺乳・調乳用器具」として哺乳瓶消毒器、ミルクウオーマー、哺乳瓶洗浄器(乙一三)、平成八年六月一日株式会社ベネッセコーポレーション発行の「たまごクラブ」別冊付録にはピップフジモトの「調乳の適温が設定できる」「調乳ポット」(乙一五)、主婦の友社発行の「わたしの赤ちゃん」平成九年三月号には「調乳適温のお湯をつくって保温」できる「ミルクタイム マイコン調乳ポット」、「調乳適温のお湯を哺乳びんごと保温できるタイプ」の「ミルクタイム調乳用保温スタンド びんごとポット」(乙一八)、にしまつやのパンフレットには「調乳用品」として哺乳瓶、消毒バサミ、フードボックス等(乙一四)、ピジョン株式会社発行の「ピジョンベビー用品カタログ」には「調乳関連用品」として「約六分で調乳適温になる」「調乳ポット」等(乙一六)が掲載されていること、平成六年一二月二五日東洋メディカル社発行の「95/96医療機器会社名簿」には、前記中村医科工業株式会社の営業品目の一つとして「調乳機器」が挙げられていること(乙一七)が認められる。

右認定事実によれば、「調乳」という語は、遅くとも昭和三六年から病院や大学医学部関係者の間で、読んで字の如く「乳」を「調える」、すなわち乳汁を調製するという意味のサ行変格活用の自動詞(「調乳する」)又はその調製した乳汁を意味する名詞(「調乳」)として用いられており、昭和四一年には、粉乳製造業者が広告に使用し、百科事典にも掲載されるに至っているから、自動詞(「調乳する」)又は普通名詞(「調乳」)として熟していたものと認められる。現に、後記3の原告のカタログ(乙一一)についての認定によれば、原告自身、「新生児に投与される調乳は」「高品位な調乳の業務」「調乳のトータルシステム化」というように「調乳」という語を自動詞(の語幹)又は普通名詞として使用していることが明らかである。したがって、これを名詞として用いた場合には、不正競争防止法一一条一項一号にいう「普通名称」に該当するというべきである。これに反する原告の主張は採用することができない。

2  次に、「ユニット」という語は、「単位。単元。ユニットシステムに使う単位部分」を意味し、右「ユニットシステム」とは「単位組立方式。同種製品に共通に使用できるような単位(ユニット)を作り、この標準化された単位を組み合わせて完成品を作りあげる方式。建築・機械・家具などに応用。」を意味するところ(広辞苑第四版)、前記一2認定の事実によれば、原告は、浄水と粉ミルクの計量・混合・攪拌・融合・自動冷却の一連の作業を行う装置に、当初「ラックーン調乳台」との名称を使用し、その後「ラックーン調乳ユニット」との名称に変更し、哺乳瓶の洗浄からミルクの調製・保管に至る一連の工程をシステム化して、哺乳瓶をまとめて洗浄する洗浄設備工程(流し台・予浸槽・洗浄機)、滅菌する工程(滅菌機)、ミルクを調製する調乳設備工程(調乳水製造装置・調乳ユニット・自動分注装置・冷蔵庫)からなる一連の病院用ミルク調製機器に「ラックーン調乳トータルシステム」との名称を使用しているのであって、「ラックーン調乳ユニット」は、「ラックーン調乳トータルシステム」を構成する一ユニットであり、まさに「調乳ユニット」という語は、病院用ミルク調製機器全体のシステムのうちの「調乳」の機能を分担する「ユニット」を意味するにすぎず、特に「調乳」及び「ユニット」の本来の意味と異なる意味で用いられているわけではない。右のように「ラックーン調乳ユニット」との名称は「ラックーン調乳台」との名称を変更したものであるだけでなく、原告は、「ラックーン調乳ユニット」のほかにも、「ラックーン調乳水製造装置」「ラックーン調乳ミキサー」「ラックーン調乳作業台」「ラックーン調乳整理器財戸棚」「ラックーン調乳戸棚」「ラックーン調乳用水量計」「ラックーン調乳用流量計」「ラックーン調乳器財洗浄槽」というように「調乳」という語を使用していることが認められ(甲一)、「調乳ユニット」という語を使用する際には常に「ラックーン」との表示を冠して使用し、かつ、「調乳ユニット」を、普通名称であることが明らかな「調乳台」「調乳水製造装置」「調乳ミキサー」「調乳作業台」「調乳整理器財戸棚」「調乳戸棚」「調乳用水量計」「調乳用流量計」「調乳器財洗浄槽」と同格のものとして使用しているということができる。

また、コンビチャチャ株式会社発行のカタログ「コンビチャチャからの快適育児環境のご提案」(乙二)には、「コンビ調乳ユニットMA」として、戸棚、乾燥器スペース、湯沸かしポットスペース、電子レンジスペース、シンク、フリー戸棚をすべて手を伸ばせる範囲内にレイアウトした、家庭において「調乳・洗浄・消毒、離乳食の準備が効果的にできる調乳ユニット」が掲載され、「コンビ沐浴ユニットBA」として、沐浴槽、ミニシンク、シヤワーホース、サーモスタット付2Way水栓、おむつ交換台、三段棚、小物置き、タオルハンガーを備えた、家庭において「脱衣から沐浴、上がり湯までをスムーズに行える沐浴ユニット」が掲載されていることが認められ、他社においても、「調乳ユニット」という語を、「沐浴ユニット」におけると同様、「調乳」の機能を備えた「ユニット」という意味で使用しているということができる。

そうすると、普通名称である「調乳」という語と普通名称である「ユニット」という語を単純に組み合わせた「調乳ユニット」という語もまた、普通名称であるというべきである。

3  「トータルシステム」という語については、平成二年四月二七日日刊工業新聞社発行の「セキュリティ・マネジメント ハンドブック」に「::販売情報、生産情報、研究開発(技術)情報などを、各部門の壁を乗り越えて自由に流通させ、販売-生産-研究開発を結合した統合管理を実行しなければならない。つまり、“情報が自由に流れる『製・販・技を結合した』三位一体のトータル・システム”を構築する必要性に迫られている」(乙三〇)、平成三年一一月一四日東洋経済新報社発行の「システム・インテグレータ」に「オフィスのレイアウトから配線、機器、そして同社が得意とする情報システムに至るまでを、日立グループの総合力を結集してコーディネートしていこうというものだ。実際、情報システムを組み入れたオフィスのトータルシステムへのニーズが高まっているのである。」(乙三一)、平成五年四月頃松下電工株式会社電機マーケティング部発行のカタログ「93-94電設資材」に「電源の取り出し位置を選ばない工場配線のトータルシステムです。」「ファクトラインによる工場配線のトータルシステム」(乙二八)、平成五年七月頃CKD株式会社発行のカタログ「F.R.L・補助機器総合」に「防爆・防水の制御にトータルエアシステム エアによる制御回路 電気を使わず圧縮空気だけで、シリンダ等の制御回路を組むことができる空気圧制御システムです。」(乙二七の1~3)、平成八年一〇月一六日ヤマト科学株式会社発行のカタログ「yamato試験研究設備」に「ヤマト科学は、科学機器・研究施設のトータルシステムサプライヤーとして、時代に一歩先駆けたリフオームに取り組んでいます。」「トータルシステム診断」「ヤマ下科学独自のノウハウや実績を充分に生かし、機器の選定からトータルR&Dシステムにいたるまでトータル技術でみなさまのニーズにお応えします。」「ヤマト科学の研究所トータル移送システムは、科学機器を専門に扱う豊かな経験からすぐれたシステムです。OA機器、精密、研究設備はもとより、研究中のデータ、資料を移送先でも維持発揮できるよう迅速・安全に移送を行います。」(乙二六の1~5)、平成八年一一月二六日社団法人日本能率協会発行の「HOSPEX japan96情報ガイド」には、「これからの病院と病院経営者のためのクライアントサーバ型オープンコンピユータトータルシステム。病院内外の情報を正確・迅速に伝えて管理するオーダリングシステムで病院システムの統合化を図ります。」(株式会社エムアンドシー)、「デイプラント脱臭トータルシステムは、施設全館にオゾン配管を通すことにより、合理的な脱臭を行う新システムです。」(株式会社環境科学コーポレーション)、「サカセは長年にわたり多数の病・医院といつしょになって院内業務の設計、改善をしてきました。この過程を通して蓄積された豊富なノウハウを体系化し、トータルシステムを完成しました。」(サカセ化学工業株式会社)、「セントラルユニは、ヘルスケアファシリティのトルルシステムプランナーとして、人・物の動線計画や情報ネットワーク化を含めた手術部のトータルプランニング::」(株式会社セントラルユニ)、「X線フィルムから各種医用機器・設備、病医院の開院・増改築のサポートおよびアフターケアまでお手伝いする“メディカル・トータルシステム”、さらには、::」(西本産業株式会社)(乙二三の1~7)、平成八年一二月頃株式会社ユヤマ発行のカタログ「全自動アンプル払出システム」に「フレキシブルな組合せのトータルシステム」(乙二五)、平成九年九月株式会社環境科学コーポレーション発行のカタログ「ディプラント脱臭トータルシステム」に「ディプラント脱臭トータルシステムは、大規模なスペースを効率的に脱臭するために開発されました。建物全体にこのシステムを取り入れることにより、安全で確実な脱臭を行い、さわやかな環境を維持することができます。」(乙二四)、平成九年一一月頃パイオニア株式会社発行のカタログに「ドルビーデジタルの臨場感をご家庭で。パイオニアはトータルシステムでサポートします。」(乙二九)と記載されていることが認められ、これによれば、「トータルシステム」という語は、医療機器等の施設設備について、一般的に「統合した、総合的なシステム」という意味で用いられているということができる。

そして、原告も、「調乳トータルシステム」との名称を、前記のとおり、哺乳瓶の洗浄からミルクの調製・保管に至る一連の工程をシステム化した、哺乳瓶をまとめて洗浄する洗浄設備工程(流し台・予浸槽・洗浄機)、滅菌する工程(滅菌機)、ミルクを調製する調乳設備工程(調乳水製造装置・調乳ユニット・自動分注装置・冷蔵庫)からなる一連の病院用ミルク調製機器に使用しているのであって、哺乳瓶の洗浄からミルクの調製・保管に至る一連の工程を統合的、総合的に行うシステムという意味で使用していることが明らかであり、右の一般的な用法と異なる意味を有するものとして使用しているとは認められない。そうすると、「トータルシステム」という語も、わが国では普通名称である「トータル」という語と普通名称である「システム」という語を単純に組み合わせた普通名称であるというべきである。「トータルシステム」という語が仮に原告主張のように造語であって正統な英語ではないとしても、そのことは右認定を妨げるものではない。原告は、前記カタログ等に使用されている「トータルシステム」という語は、部品を組み合わせた一個の装置(プラント)を指すもの(乙二四、二五、二七の1~3)と、用途に応じて利用できるように各種の独立した商品が数多く作られてどのような場合にも応じられるという形式の商品を総合して指すもの(乙二八、二九)と、どちらとも分からないものとがあって、その意味が定まっていない旨主張するが、一般に言葉は必ずしも明確な一つの意味に限定して使用されるとは限らないのであって、多義的な意味を有する普通名称が多数存在することは顕著な事実であるから、仮に「トータルシステム」という語の意味が多義的であるとしても、右認定を左右するものではない。また、原告は、普通名称であれば、「トータル移送システム」(乙二六の5)、「トータルエアシステム」(乙二七の2)のように「トータル」と「システム」の間に文字を割り込ませるようなことはできないはずであるとも主張するが、原告固有の名称ではなく、普通名称であるからこそ、右のように「トータル」と「システム」の間に別の名詞を割り込ませることができるのである。

更に、原告が病院用ミルク調製機器を宣伝広告するために作成している見開き一枚のパンフレット(検甲二)では、表紙の左上に「RACOON 調乳トータルシステム」、右下に原告の会社名「三田理化工業株式会社」を印刷し、見開き頁において、「ラックーン調乳設備は、各種機器が豊富なことから、ベビーの多・少人数にかかわらず、無菌操作法・終末殺菌法等、ニーズに合わせた対応ができますのでご相談下さい。::」とした上で、AからEまで各種機器の具体的な五種類の組合せの例を五段に示しており、その中の例えばAの例では、洗浄設備工程として流し台・予浸槽・ボトルクイックエースWZB-V型、滅菌工程としてターミナルスチーマーACP-P-PS型、調乳設備工程として調乳水製造装置MIFS型・調乳ユニットCMS型・自動分注装置(ロボット内蔵)MAF-22CL型・冷蔵パスボックスPBC-P型を左から右へ順に写真入りで掲載していること、同様の五五頁にわたるカタログ(乙一一)では、同様に表紙の左上に「RACOON 調乳トータルシステム」、右下に原告の会社名を印刷し、序文において「近年の科学技術の急速な進歩、また医科学全般にわたる高度医療の進展に伴い、新生児に投与される調乳は院内の給食栄養科又は病棟内に基礎的な設備機器の調乳トータルシステム化の設備が望まれています。ラックーン調乳トータルシステムは限られたスペースを、より有効に活用するために、作業導線を考慮したレイアウト::など数多くのメリットで、高品位な調乳の業務を強力にバックアップいたします。」「お陰様でラックーン調乳設備は、発売以来18年::ここまで成長してまいりました。あなたは何れの方法をお選びになられますか?」と記載した上で、前同様にAからCまで各種機器の具体的な三種類の組合せの例を三段に写真入りで示し、DからFまでまた別の三種類の組合せを文章のみで示し、中味の頁において、左上に「RACOON」との表示をした上で、「調乳トータルシステムのレイアウト例」として乳児一〇〇人ないし二五〇人用、五〇人ないし一〇〇人用、二〇人ないし五〇人用、二〇人ないし三〇人用それぞれの場合の各機器の具体的な配置例を示しており、また、「ラックーン調乳設備」の大見出しのもとに、「調乳のトータルシステム化をサポートするラックーン設備」と記載し、すべての頁の左上に「RACOON」との表示をした上で、しかも「ラックーンZ流し台・水切台」のようにすべて「ラックーン」の語を冠して、Z流し台・水切台、予浸槽、ボトルクイックエース、三田万能洗浄機、ボトルクイック、ボトル洗浄機・サーパス自動洗浄機、ターミナルスチーマー・消毒器・高圧蒸気滅菌機・ボトルスチーマー、熱風強制循環式定温乾燥機、調乳水製造装置、調乳ユニット、パスボックス・冷蔵庫、作業台・戸棚・クリーンロッカー、ミルクウォーマー・ワゴン車・配乳車、器財・器具を、写真と文章により紹介していることが認められる。

右認定の事実及び前記1認定の事実によれば、「調乳トータルシステム」という語は、「調乳のためのトータルシステム」を直ちに想起させるものであり、原告自身、「ラックーン調乳トータルシステム」というように常に「RACOON」「ラックーン」との語を冠して使用しているだけでなく、原告の製造、販売する各種の機器にもすべて頭に「RACOON」「ラックーン」の語を冠して使用しており、また、「基礎的な設備機器の調乳トータルシステム化」や「調乳のトータルシステム化」のような使用の仕方もしているのであるから、原告は、自己の商品を他社の商品と識別する標識としては「RACOON」「ラックーン」との表示を使用しているのであって、「調乳トータルシステム」という語もまた、普通名称である「調乳」という語と普通名称である「トータルシステム」という語を単純に組み合せた普通名称であり、自他商品識別機能を有しないというべきである。原告は、仮に「ユニット」だけでなく、「トータルシステム」という語もまた普通名称に転化したものであるとしても、「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」というように用途の特定を表す「調乳」の語を冠することにより、新たに独自の商品表示を形成し、原告の商品との結びつきが堅く、これを原告が古くから独占して使用しているのであるから、「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示は、普通名称を普通に用いたものでも、慣用されている商品表示でもないと主張するが、以上の説示に照らし、採用することができない。

4  以上のとおり、「調乳ユニット」との表示も、「調乳トータルシステム」との表示も、普通名称であって、自他商品識別機能を有するものではなく、右自他商品識別機能を有する標識としては、原告は「RACOON」「ラックーン」との表示を使用しているのであるから、たとえ前記のように原告が原告の製造、販売する病院用ミルク調製機器について、昭和四六年五月から「ラックーン調乳台」、昭和五七年一二月から「ラックーン調乳ユニット」、昭和四八年頃から「ラックーン調乳トータルシステム」という名称で、「調乳」及び「調乳ユニット」、「調乳-タルシステム」との表示を使用してきており、全国各地の相当数の大病院にこれらの病院用ミルク調製機器を納入してきた実績があるとしても、そして、「調乳ユニット」「調乳トータルシステム」をわが国で最初に製造、販売したのが原告であり、最近に至って被告らが製造、販売するまでこれを製造、販売する業者が存在しなかったとしても、「調乳ユニット」との表示も「調乳トータルシステム」との表示も、原告の商品表示として使用されているとも、原告の商品表示として広く認識されているとも認められない。証人酒井欣吾の証言、原告代表者の供述中、これに反する部分は採用することができない(仮に原告の商品表示が周知性を取得しているとすれば、それは「ラックーン」「RACOON」との表示である)。

原告は、「RACOON」「ラックーン」との表示は、原告の商標(商標法二条一項一号)であって、原告の取り扱う商品全部に使用しているものであり、これに対し、「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示は、原告が取り扱う病院用ミルク調製機器についてのみ使用する商品表示(不正競争防止法二条一項一号)であり、原告が取り扱う商品であっても他の商品には使用していない旨主張するが、「RACOON」「ラックーン」との表示が原告の商標であることは原告主張のとおりであり、これを原告の取り扱う商品全部に使用していて、商品の種類毎に各別の商標を使用していないからといって、別段異とするに足りず(一メーカーが自己の全種類の商品すべてに一つの商標のみを使用することは珍しいことではない)、また、病院用ミルク調製機器でない商品に「調乳」の語を使用するのは商品の内容、用途を誤認させるものであって相当でないから、原告が「調乳ユニット」「調乳トータルシステム」との表示を病院用ミルク調製機器以外の商品に使用していないことは、当然のことであって、何ら前記認定判断を左右するものではない。

更に、原告は、仮に「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」という語が普通名称として取り扱われるとしても、原告は、古く昭和四六年から「調乳」に関し独占的に「調乳ユニット」、「調乳トータルシステム」との表示を使用して同じ商品を独占的に販売し続けて信用を得てきたのであり、かかる表示は、少なくとも大病院において原告の商品表示として著名性を取得しており、原告の商品に密着した商品表示になりきっているから、それだけで保護されるべきであると主張するが、「調乳ユニット」「調乳トータルシステム」との表示が原告の商品表示として使用されているとも、原告の商品表示として広く認識されているとも認められないことは前示のとおりである。

三  したがって、「調乳ユニット」「調乳トータルシステム」との表示が原告の商品表示として広く認識されるに至っていることを前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。

第五  結論

よって、原告の被告らに対する請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する(平成一〇年二月一九日口頭弁論終結)。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 小出啓子 裁判官田中俊次は転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 水野武)

目録

(一) 広告紙(カタログ)

表示 「調乳ユニット」 株式会社ヒラタニ

発売 株式会社ヒラタニ、東洋紡エンジニアリング株式会社

製造 東洋紡エンジニアリング株式会社

内容 病院内の病棟などで、新生児に投与する調乳作業を、清潔で能率よく行える調乳ユニットである旨

用途 調入水の計量・溶解・攪拌・冷却などの工程を一貫して行うことができる旨

(二) 広告紙(カタログ)

表示 「調乳トータルシステム」 株式会社ヒラタニ

内容 設備の洗浄工程、滅菌工程、調乳工程

用途 トータルシステムとして前記工程を一貫して行うことができ、システムレイアウトとして用いる。

以上

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